IDESコラム vol. 23「【派遣先からのレター編】バングラデシュの避難民キャンプより2」

感染症エクスプレス@厚労省 2018年10月12日

IDES養成プログラム 2期生:井手 一彦

IDES2期の井手一彦です。バングラデシュ南東部のコックスバザールでの3ヶ月間の活動を終えて帰国して参りました。
さてミャンマーから避難された方が滞在するキャンプでの家屋の過密状況は報道などで目にされた方もいらっしゃるかと思いますが、具体的な数字を知ったらイメージが変わる方もいらっしゃるかもしれません。国際移住機関の報告では、2017年8月25日以降1年間でおよそ70万人が避難し、2018年8月末現在の避難者総数は92万人とされています。この総数は日本の政令指定20都市の人口と比べてみると、千葉市、北九州市についで14番目(※1)に位置する規模です。避難キャンプ全体の敷地は166万人(※2)が居住するニューヨークマンハッタンの1/3(※3)に匹敵することからもその過密ぶりを想像していただけるのではないでしょうか。

キャンプ内では多くの機関、組織が協力して対策を講じていますが、うまく実行に移せないこともあります。その原因の一つが「誤った噂」です。この「誤った噂」が、誤解や不安をあおり、それがどんどんエスカレートしてしまうことがあります。
例えばキャンプ内には巨大なタンクや手押しポンプが設置され、水の確保は可能となっていますが、各家庭内にくみ置きされることもあり、水の塩素処理を行うための浄水タブレットが配布されます。一定量の水に1個溶かすだけで、安心して飲める水ができますが、現地語で説明しながら配布しても未使用のまま家庭内に放置されていることがあります。
また、ワクチンを小児や妊婦さんに接種する活動を行いますが、拒否される方がいらっしゃいました。そこには、堕胎させるために変な薬を配布しているという噂があったようです。
その他にもある医療施設に行くと体を切り刻まれるという噂もありました。創傷部が感染していたことから、膿を排泄するために切開したことが噂の始まりではないかということでした。
私たちが活動する際は、現地語が話せるスタッフに同行してもらい、現地語で記載されたパンフレットも併用しながら、避難民の方に理解していただきながら対策を受け入れてもらえるよう活動しています。小さな行き違いや思い込みが、噂という形になり、結果として避難民の健康や命に関わる問題に帰結します。

バングラデシュの避難キャンプに限ったことではありませんが、災害や迫害によって避難生活を強いられる方々は、避難前の生活とは環境も状況も異なっていることもあり、ストレスや不安をたくさん抱えていらっしゃいます。時間も人も要しますが、彼らに信頼してもらえるよう、日頃からのコミュニケーションと丁寧な説明の繰り返しが、よりよい結果に結びつくことから、たくさんのボランティアの方々が日々キャンプ内で活動してくださっています。

次回の私のコラムでは、密なコミュニケーションから、日本の団体と協業させていただき、新たな取り組みにつながったことについてお話しいたします。

※1:総務省政令指定都市一覧(平成28年10月26日現在)
※2:United states census bureau
※3:https://www.theguardian.com/global-development/2018/aug/24/rohingya-one-year-after-attacks

(編集:成瀨浩史)

●当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
●IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。